科学分野で授与されるノーベル賞に相当するのが建築界のプリツカー賞です。ジェイ・プリツカーと妻のシンディによって設立され1979年から授与されている同賞の受賞者名簿は、過去数十年における現代建築界の紳士録とも言うべきものです。紳士録の中のひとりが設計した現代建築の金字塔は、ガラス張りのファサードに直接シュテファン大聖堂を映し出しています。

ウィーン出身のプリツカー賞建築家

設計者は、2014年に世を去ったオーストリアの建築家ハンス・ホラインで、1985年にプリツカー賞を受賞しました。ファンタジー豊かな先進的建築の例にもれず、1990年に完成したハース・ハウスは、その独創的な外観によって直ちに大スキャンダルとなりました。ガラス張りの奇妙な現代建築は、シュテファン広場という歴史的ロケーションには不適切だというのが反対派の主張でした。しかし今やハース・ハウスは、ウィーン市民に愛され旧市街を飾る不可欠の存在となっています。この建物によってハンス・ホラインは、ウィーンにおける現代建築の新たなエポックを切り拓きました。プリツカー賞の建築家は生涯にわたり、ウィーンに数々の名作を生み出しました。アルベルティーナの翼状外屋根（2003年）、ドナウ運河のメディアタワー（2001年）、コールマルクトにある宝石店シュリンの店舗（1984年）などが代表作です。

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「足長」建築の都ウィーン

ウィーンに現代建築を設計したプリツカー賞受賞者名鑑の最新の建築家は、フランスの建築家コンビ、ラカトンとヴァッサルで、2021年度の受賞者となりました。ラカトンとヴァッサルはウィーンでミュージアム・クォーター内のカフェレストラン「カーン（Kaan）」の素晴らしい内装を手掛けました。2001年に完成したレストランでは、オリエント風陶板によるドーム型天井が極めて印象的です。1998年度プリツカー賞を受賞したイタリアのスター建築家レンツォ・ピアノも、ウィーンで設計しています。ピアノの設計で2018年に完成したパークアパートメント・アム・ベルヴェデーレは、細い支柱の上に建てられた大胆な高層ビル群で、ウィーンのモダンなスカイラインを生み出しています。ここには住宅に加えてホテルもオープンしています。2001年度のプリツカー賞を受賞したスイスの建築家コンビ、ジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロンも、1991年にはウィーンの集合住宅を設計しています。それはウィーン市東端の22区ピローテンガッセにある約200のビルからなる住宅プロジェクトです。彼らが設計した集合住宅も、ピアノのパークアパートメント同様、支柱の上に建てられた「足長」スタイルです。

2004年度プリツカー賞を受賞し2016年に世を去ったザハ・ハディッドも、ウィーンにおける建築プロジェクトで、コンクリートの支柱を視覚的アクセントとしています。これは2006年に建設された住宅ビルで、オットー・ワーグナーによる歴史的な市内交通線路用築堤を覆い、現代彫刻のように造形されています。ウィーン9区のシュピッテラウアー・レンデにあります。彼女は更に大規模でスペクタクルなビルも設計しています。ウィーン経済大学新キャンパスにあり、これも一種の「高床」建築となっています。新キャンパスは2013年のオープン以来、ウィーンにおける現代建築の展示場のような存在です。ハディッドが設計した大学図書館は上部が張り出した独創的なフォルムで、キャンパスの中心的ビルとなっています。

郊外から中心地までジャン・ヌーヴェル

2008年度プリツカー賞を受賞したフランスの建築家ジャン・ヌーヴェルは、1990年代末からウィーンの現代建築を手がけています。最初の建物はE字型の平面図を有する集合住宅で、ウィーン21区のレオポルタウアー・シュトラーセにあります。2000年代初頭には、ウィーン11区にある巨大なガスタンク群改築プロジェクトに参加しています。歴史的なレンガ建築はヌーヴェルの設計によってモダンな現代建築へと変貌、ファンタジックな緊張空間を生み出しています。ウィーンにおけるヌーヴェル最新作は、旧市街ドナウ運河添いに建てられました。2010年に完成したヌーヴェル・タワーはデザイン・タワーとも呼ばれ、ホテル、店舗、レストランがオープンしています。18階にはパノラマレストランがあり、スイスのアーチスト、ピピロッティ・リストが内装を担当しています。とりわけカラフルな天井は、ウィーンのレストラン内装において最もスペクタクルなものです。カラフルに輝く天井は、ドナウ運河対岸のシュヴェーデンプラッツからも良く見え、夜空に輝く蜃気楼のようです。